米国のDonald Trump大統領は、多くの国に対する相互関税の税率を4月2日に発表しました。影響を受けるのは57か国で、その中には米国市場でのシェアが大きいスマートフォンメーカーであるApple、Samsung、Motorola、Googleが製造拠点を置く国々も含まれています。
2024年の米国におけるスマートフォン販売シェア
出典:Counterpoint Research Monthly Market Pulse Report
ベトナムには米国への輸入製品に46%の関税が課せられ、同国でスマートフォンの60%以上を生産しているSamsungがその影響を被ります。他のメーカーは中国での生産に大きく依存しており、その中国に課せられる税率は既存の20%に相互関税34%を加えた、54%です。大手スマートフォンメーカーはこの関税引き上げの影響をまぬがれず、マイナスの影響を減らすべく対応を模索しています。
米国で販売されるスマートフォンのコスト構造は、新しい関税の影響をもろに受けます。結果として、小売価格の上昇と、それによる需要の減少が起きるでしょう。ただし、その影響は、どの国で何台くらい生産して米国に送っているかによって、メーカーごとに異なります。現時点で、私たちは以下のように分析しています。
- Appleはもともと他社より高いマージンを維持してきているので、関税によるコストをある程度吸収する余裕があります。このため、短期的には関税分の小売価格への転嫁を避けることができ、影響は最も小さい見込みです。それでも、インフレと消費者心理の冷え込みによって需要が弱まる懸念があります。
- 中国と比べ、インドの関税は26%と低くなっています。そのインドではAppleは2024年にiPhoneの約20%を生産したと推定されます。インドでさらに増産するかについては、以下の要素がからみます。
- Apple自身が生産の分散化をどれだけ早く進めたいか
- インド国内のEMSの技術的レベル
- 設備投資にどれだけ意欲的か
- 政府の支援が受けられるか
- 米国との交渉において、インドが自国を「望ましい」生産拠点と位置付ける手腕を発揮できるか
調査担当バイスプレジデントNeil Shah氏によるAppleのインドへの生産割り当てに関するコメント:
- 「インドでの生産が一番理にかなっている。その次がブラジルだ。だが、どちらにしても生産能力を上げるには時間がかかる。でも、Appleも他のどのメーカーも、この関税が一か月後、あるいは一年後にどうなっているのか、まったく読めないのは確かだ。」
- 「Appleや他社が中国の代わりにインドを検討するにあたって、そこにはまる好条件はいろいろある。インド国内EMSの技術レベル、設備投資意欲、政府の支援などだ。だが、トランプ大統領から最恵国待遇にしてもらうディールをインドが勝ち取れなければ、すべては意味がない。」
- Samsungは、生産の中国への依存度が最も低いですが、その一方で、これまで関税がかけられていなかったベトナムでの生産を行っているため、今後は極めて高い関税に対処する必要があります。加えて、Samsungの商品は、より価格に敏感な消費者層の割合がAppleよりも多い点も懸念材料です。この消費者層は、高価なフラグシップ機種を買う消費者層よりもさっさと買わない選択をしてしまうからです。
- MotorolaとGoogleも、中国とベトナムへの高い関税の影響をまともに受けることになります。低価格機種に重点を置くMotorolaにとって、影響はより大きく出るでしょう。
この高関税の発表と発動は急でしたが、メーカー各社はTrump大統領の勝利が確定した11月以降、こうした事態を予期していたことでしょう。それでも、生産拠点を移すような根本的な解決には多くの投資と時間を要するので、短期的な助けにはなりそうもありません。さらに長期的な判断も、今後どの国にどれだけ関税がかかるのかを見定める必要があります。
【カウンターポイントリサーチ社概要】
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